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台風15号による倒木被害を考える

房総半島で風速50メートル近い暴風を記録した台風15号。

大規模な停電を引き起こしましたが、電柱や鉄塔が倒れたことに加えて、多くの倒木が送電線を切断したり、重みで電柱を引き倒したり、交通を遮断するなどして被害を大きくしました。

 

印西市の自宅近くでこのように倒木が集中した場所があります。

まるで竜巻が通った跡のようですが、付近にそのような痕跡はありません。

戦後に植林された杉林です。このように利用されるあてもなく放置されている杉林は県内にたくさんあります。

なぜこのように集中的に折れてしまったのでしょうか。

 

千葉県の杉はサンブスギという名で知られています。

同じサンブスギという呼び名でも、銘木で名高い本来の山武杉は実生の木、つまり天然木に限るそうで、植林のサンブスギはそれとは全くの別物とのことです。

 

サンブスギは挿し木による植林によって増やされた杉で、桜のソメイヨシノと同じようにクローン、つまり全て同じ遺伝子を持ちます。

成長が早い、通直で断面が正円である、樹冠が小さいなど、林業に適した性質を持つため戦後大規模に植林されましたが、後年、「溝腐病(みぞぐされびょう)」という病気が高い確率で発見されるようななりました。

 

近寄ってみると幹に溝が出来て內部が腐朽している様子が分かります。

これが溝腐病です。

溝腐病は千葉県以外にも見られますが、チャアナタケモドキという菌による非赤枯性溝腐病は千葉県に集中しています。

 

いすみ市で処理された倒木の断面。

樹齢7〜8年で罹患して、幹部が腐朽したまま50年ほど育ったものと思われます。

罹患したことが発見された時点で間伐されていれば良材だけが残るのだと思いますが、放置することによって次々に広がったのが冒頭の印西市の例かと思われます。

 

強風を受けて枝が折れることはありますが、健全な木がこのように途中から折れるということはまずありません。

 

こちらはいすみ市の同じ邸宅内で根っこから倒れた樹高20メートルはあろうかという大木。猛烈な風であったことが伺えます。

溝腐病がなければ、このように根っこから倒れるのが普通です。

それにしても杉の根の広がりというのは案外小さいものですね。

 

 

 

今回、県内各地で倒木が被害を広げたり復旧作業を妨げた原因は、間伐などの手入れがされていない杉林の路肩の部分に溝腐病に罹った木が放置されていたことが一因であると思われます。

冒頭の集団倒木があった場所に近い印西市内の里山。

自然に生えた雑木林に倒木は全く見られません。

 

今回の災害を期に道路や送電線に沿った樹木は全て伐るべしというような荒っぽい議論が起こらないことを願います。

伐るべきは病気にかかった木や枯れかけた木、竹やぶなどであって、健全な雑木林は伐る必要はないのです。

 

どう考えても悪いのは電柱です。

先進国で日本のように電柱が林立し、電線が何重にも宙を渡っている景色を見ることはありません。

送電線だけでなく光ファイバーなどの通信線も増えて電柱にかかる荷重、風圧力は増える一方であろうと思います。

 

日本は20世紀末の最も豊かな時代に地道にインフラを整備することなく、ハコモノ公共施設や官営レジャー施設の建設、原発の新設などに明け暮れてお金を浪費してしまいました。

 

電線地中化の費用は電力会社、地方自治体、国が1/3づつ負担するものですが、電力会社まかせでは進捗は望めません。

政治がリーダーシップをとって、先進国にふさわしい強固なインフラ、美しい景観を整備していくべきだと思います。